なぜ、地方のフォトグラファーが、
東北のデザイナーたちの活動「東北デ、」に惹かれるのか?

 
 

このジャーナルで考えていること

01|「東北デ、」との出会い

02|婚礼の仕事は、どう変わりつつあるのか

03|地域の専門性と、人が出会う場

04|東北で、自分自身が試していること


 

01|「東北デ、」との出会い

自分は、2025年に「東北デ、」という活動に出会った。

それ以来、この活動にかかわるデザイナーたちにとても惹かれている。

  • 青森県:アソビス 佐々木 遊 氏(八戸市)

  • 岩手県:のはら 阿部 拓也 氏(遠野市)

  • 宮城県:合同会社nekiwa 横塚 明日美 氏(丸森町)

  • 秋田県:澁谷デザイン事務所 澁谷 和之 氏(美郷町)

  • 山形県:吉野敏充デザイン事務所 吉野 敏充 氏(新庄市)

  • 福島県:marutt株式会社 西山 里佳 氏(南相馬市)

  • 福島県:髙木デザイン事務所 髙木 市之助 氏(いわき市)

  • 青森県:トヨカワイラスト研究室 豊川 茅 氏(青森市)

  • 岩手県:鈴木 健一 氏(花巻市)

  • 宮城県:合同会社スカイスター 伊藤 典博 氏(仙台市)

  • 秋田県:ココラボラトリー 後藤 仁 氏(秋田市)

  • 山形県:羽越のデザイン企業組合 冨樫 繁朋 氏(鶴岡市)

  • 福島県:手作業 小池 晶子 氏(福島市)

デザインという仕事そのものに強い関心があったから、というわけではない。

では、なぜ?

「東北デ、」の活動を見ていると、人口が減っていく地域で、これからどうやって仕事をつくっていくのか。

そのために、個人の専門性をどう生かし、誰と出会い、どう組み合わせていくのか。

そのことを考えるためのヒントが、ここにはあるように感じた。

自分には、そんなふうに見えた。


02|婚礼の仕事は、どう変わろうとしているのか

自分は、結婚にまつわる撮影を多くしているフォトグラファーでもあるので、まず婚礼業界についてのことから。

結婚式には、多くの専門家が関わっている。

ウェディングプランナー。
レストラン。
シェフ。
パティシエ。
フォトグラファー。
ビデオグラファー。
ヘアメイク。
着付け師。
司会。
音響。
DJ。
花屋。
衣装屋。
ホテル。
専門式場。

たくさんの専門性が組み合わさって、一つの結婚式がつくられている。

けれど、「専門家が分業して婚礼をつくる」という現在の形は、昔からあったわけではない。

戦前の婚礼は、家族や親族、地域社会が中心となってつくられていた。

戦後になると、ホテルや専門式場が、会場、料理、衣装、進行などをパッケージとして提供するようになった。

婚礼をつくるための機能が、一つの施設や事業者に集約されていった。

「結婚式をする」ということが、

自分たちで人を集めてつくることから、

専門業者にサービスとして依頼することへ、

変わっていった。

ところが、現在、その構造が揺らいでいる。

人口減少や婚姻数の減少によって、大規模な婚礼を維持することが難しくなり、結婚式そのものも小規模化している。

すると、ホテルや専門式場を中心とした「一つの場所に、多くの機能を集約する」というモデルも成立しにくくなる。

一方で、複数の専門家が、それぞれの専門性を持ち寄り、案件ごとにチームをつくる形も生まれている。

プランナー+花屋+料理人+ヘアメイク+写真家+会場。

あるいは、

写真家+着物+美容師+菓子店+古民家。

案件によって必要な人が変わり、仕事が終われば、それぞれの仕事に戻っていく。

「固定された組織のなかに専門家がいる」

から、

「必要なときに専門家が集まり、チームが生まれる」

へ。

自分には、そんな変化が起きているように見える。


03|地域の専門性と、人が出会う場

このことを、東北という場所から考え直してみる。

東北は、少子高齢化や若年層の流出によって、働き手や需要の減少などに全国に先駆けて向き合っている地域とされている。

これまでの産業や組織のあり方を、そのまま維持することが難しくなっている。

つまり東北では、「仕事が減る」ということだけでなく、「仕事をどうつくるか」という問題も、より早く現れているのではないか。

「東北デ、」の活動を見ていると、そこに一つのヒントがあるように感じる。

「東北デ、」では、デザイン人材をグラフィックデザイナーだけに限定していない。

デザインリサーチャー。
ソーシャルデザイナー。
編集者。
教師。
ライター。
イラストレーター。
写真家。
建築家。
プランナー。
アートディレクター。

さまざまな専門性を持った人たちが含まれている。

自分が興味深いと思ったのは、「専門家」というものの捉え方だった。

専門家とは、決められた作業を請け負う人だけではない。

地域にあるものを見つける。

組み合わせる。

編集する。

人と人をつなぐ。

新しい価値をつくる。

そうしたことまで含めて、専門性として考えることができる。

自分には、そんなふうに見えた。

ここから、婚礼業の話が少し違って見えてくる。

婚礼を「ウェディング業界」という一つの業界として考えると、ホテル、専門式場、プランナー、衣装、美容、写真、料理、花といった「業種」の集合として見えてくる。

けれど、それぞれを「地域に存在する専門人材」として見ると、別の構造が見えてくる。

料理人がいる。

花屋がいる。

美容師がいる。

写真家がいる。

菓子職人がいる。

着付け師がいる。

会場を持っている人がいる。

音楽をつくれる人がいる。

場を編集できる人がいる。

それらは、必ずしも同じ会社に所属している必要はない。

必要なときに出会い、組み合わされば、一つの出来事をつくることができる。

そう考えると、問題は「婚礼業界をどう維持するか」だけではなくなる。

人口減少によって婚礼市場が小さくなるなら、

「どうすれば、これまでと同じ数の結婚式を維持できるか」

だけを考えるのではなく、

「地域にいる専門家たちが、どうすれば別の仕事をつくれるか」

と考える必要があるのではないか。

そうすると婚礼は、

「人と専門性が組み合わさって、一つの出来事をつくる」

ための実例として見えてくる。


婚礼について考えていると、そこから地域のさまざまな仕事につながっていくものが見えてくる。

地域には、結婚以外にもたくさんの人生の出来事がある。

出産。
七五三。
成人。
還暦。
家族の集まり。
法事。
誕生日。
店舗の開業。
店の周年。
地域のお祭り。
地域イベント。
季節の行事。

そこにも、料理人、菓子職人、花屋、美容師、プランナー、デザイナー、フォトグラファー、音楽家、会場など、さまざまな専門性を組み合わせる余地がある。

そう考えると、テーマは「婚礼業界の再構築」よりも大きくなる。

「地域の人生の出来事を、誰が、どうやってつくるのか」

という問いになる。

そして、人口減少は「市場の縮小」だけではない。

人口が減る。

消費者が減る。

働き手が減る。

会社が維持しにくくなる。

専門業種ごとの市場も小さくなる。

その先には、「仕事のつくられ方」そのものが変わる可能性がある。

これまでのように、

大きな会社が仕事を抱え、

その内部で分業する。

という形だけではなく、

複数の専門家が、

それぞれの場所で仕事を持ちながら、

必要なときだけ組み合わさる。

という仕事のつくり方も増えていくのではないか。

その意味で、自分には「東北デ、」の活動が面白く見えた。

「東北デ、」の報告書では、東北のデザイン人材が少ないことや、デザイン人材との協働において「マッチングの仕組みがないこと」が課題として挙げられている。

けれど、自分が興味深いと思ったのは、その解決が単純なマッチングだけではないように見えたことだった。

「この仕事には、この人」

と効率よく人を組み合わせるのではなく、

人が出会う。

話す。

お互いの仕事を知る。

一緒に何かをやってみる。

その関係のなかから、仕事や活動が生まれていく。

自分には、そのための「場」が重要なのではないかと感じられた。

これは、婚礼の話にもつながる。

ウェディング関係者を集めて、

「あなたは何ができますか?」

「この案件にマッチングしましょう」

というだけではない。

もっと前の段階で、

フォトグラファーと料理人が出会う。

花屋と菓子職人が出会う。

美容師と着付け師が出会う。

会場を持つ人とプランナーが出会う。

デザイナーと地域の店主が出会う。

そして、

「一緒に何かできるかもしれない」

という関係が生まれる。

その関係のなかから、婚礼が生まれてもいい。

そこから別の仕事や活動が生まれてもいい。

イベントでも、

家族の祝いでも、

店の周年でも、

地域の行事でもいい。

重要なのは、

「婚礼業界に人を集めること」

ではなく、

「地域にいる人たちが、専門性を持ち寄って、新しい出来事をつくれる環境」

をどうつくるか、ということなのだと思う。


04|東北で、自分自身が試していること

そう考えると、東北を「遅れている地域」と見る必要もなくなる。

都市部のウェディング業界では、フリーランス同士をつなぐイベントやネットワークが生まれている。

けれど、東北には同じ規模の市場や人数がない。

だから、都市部で成立している仕組みを、そのまま東北に持ってくるだけでは成立しないかもしれない。

むしろ東北では、人口減少によって、

大きな市場。

大きな会社。

固定されたチーム。

専門業種ごとの分業。

といった構造が成立しにくくなる。

だからこそ、

小さな専門性。

個人。

複数の仕事。

ゆるいネットワーク。

案件ごとのチーム。

偶発的な出会い。

そうしたものを前提にした仕事のつくり方を考える必要があるのではないか。

そういう意味では、東北は「後発」ではなく、「先行している」と考えることもできる。


そして、ここからは自分自身の仕事について。

自分がしたいこと、やるべきだと思うことは、

「地元のウェディング業界を盛り上げよう」

ではないし、

「フリーランスのウェディング関係者を集めよう」

でもない。

もっと根っこにあるのは、

「人口が減っていく地方で、わたしたちは、これからどうやって仕事をつくっていったらいいんだろう?」

という問いだ。

一人ではできないけれど、誰かと一緒ならできることはないか。

どんな専門性と専門性が出会ったら、今までになかったものが生まれるのか。

そのために、どんな人と人が出会えばいいのか。

どんな場があればいいのか。

大きな仕組みをつくる必要はないのかもしれない。

マッチングサービスをつくる必要もないかもしれない。

大きな会社をつくる必要もないし、

「地域活性化」を掲げる必要もない。

人と会う。

話す。

一緒にやってみる。

小さな仕事をつくる。

また誰かと出会う。

その繰り返しのなかで、仕事の形を探していく。

自分が大切にしている婚礼の仕事を起点に、これからの地域の仕事について考えてみたい

写真は、そのなかで自分が持っている専門性の一つだ。

大切なのは、

「地域にいる人たちの専門性を、どう組み合わせるか」

「どうすれば、まだ存在していない仕事を生み出せるか」

「そのために、人が出会える場をどうつくるか」
「足りない専門性を、どう自分たちで補っていくか」

ということ。

人口が減る。

市場が小さくなる。

仕事が減る。

だから仕事を奪い合う。

ではなく、

人口が減る。

これまでの仕事のつくられ方が成立しにくくなる。

だから、仕事のつくられ方そのものを変えていく。

大きな組織ではなく、小さな専門性。

固定されたチームではなく、必要なときに生まれるチーム。

効率的なマッチングではなく、偶発的な出会い。

完成されたサービスではなく、一緒につくるプロセス。

一つの業界ではなく、業界をまたいだ協働。

そういう仕事のつくり方を、小さく試していく。

「東北デ、」の活動を見ていて、自分が受け取ったのは、こういう考え方なのだと思う。

そこに完成された答えがあるからではない。

これからの地域や仕事について考え、実際に人と出会い、活動し、試していく。

その姿勢そのものが、自分には参考になるように感じた。

地域で人と人が出会い、それぞれの専門性を持ち寄り、そこから新しい仕事や活動が生まれていく。

やってみて、考える。

またやってみる。

その繰り返しのなかから、少しずつ答えを探していきたい。


「東北デ、」について、詳しくはこちら。

●「続・東北デ、~東北で、デザインするということ~」|東北経済産業局HP

https://www.tohoku.meti.go.jp/kikaku/chihososei/topics/250526.html

●「続・東北、デ~東北でデザインするということ~」記録集|発行元:澁谷デザイン事務所

https://suzuransha.base.shop/items/132363758

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